少子高齢化が進む中で我が国の経済成長と国民生活を豊かで持続的に支える社会インフラとしての「新たな物流基盤」の構築に向け、国家重点プロジェクトとして内閣府が司令塔となり推進している戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つである「スマート物流サービス」について、内閣府(SIPスマート物流サービス担当)プログラムディレクター田中従雅よりご紹介いたします。

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(本動画は、富士通株式会社がグローバルイベント「Fujitsu ActivateNow」においてオンライン配信するために2020年11月に収録したものです)

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)とは

 SIPとは、内閣府に設置されました総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトです。
 国民にとって真に必要な社会的課題や、日本経済再生に寄与できるような世界を先導する課題に取り組むものです。
 平成26年度からは第1期の11課題(「重要インフラなどにおけるサイバーセキュリティの確保」のみ平成27年度から)、平成30年度からは第2期の12課題が推進されています。各課題を強力にリードするプログラムディレクター(PD)を中心に産学官連携を図り、基礎研究から実用化・事業化、すなわち出口までを見据えて一気通貫で研究開発が推進されています。

SIP(第2期)「スマート物流サービス」について

 サプライチェーン(SC)全体の最適化を図り、物流・商流分野でのデータを活用した新しい産業や付加価値を創出し、物流・小売業界の人手不足と低生産性の課題を解決します。
 先行するセキュリティ等の取組や、港湾内物流情報の電子化に向けた取組などとの連携を視野に入れつつ、国内外のSC上の様々なプレイヤーが持つ物流・商流データを革新的技術で見える化し、最適化に向けて共有・活用できるオープンでセキュリティの担保された物流・商流データ基盤を構築します。現状では個社・同一業界内に限定した取り組みに止まっているものが、SC上の垂直・水平プレーヤー間のコネクティビティを高め、オンデマンド、トレーサビリティ等の価値を生み、高い物流品質の維持と荷主・消費者の多様な選択肢の確保を同時に達成し、イノベーション(新たなサービス、テクノロジー等)を創出できる物流・商流環境を実現します。

SIPスマート物流サービス プログラムディレクター紹介

田中 従雅TANAKA Yorimasa
ヤマト運輸株式会社 執行役員


【略歴】
1981年 ヤマトシステム株式会社入社
2011年 ヤマトホールディングス株式会社シニアマネージャー(IT戦略担当)
    兼ヤマト運輸株式会社情報システム部長
2016年 ヤマトホールディングス株式会社執行役員 IT戦略担当
2019年 ヤマトホールディングス株式会社常務執行役員
2021年 ヤマト運輸株式会社執行役員(デジタル機能本部 デジタル改革担当)
2021年 現職

研究開発計画の概要

(※内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期『スマート物流サービス』の研究開発計画」(令和元年12月18日版)より以下引用。)

1. 意義・目標等

 我が国の物流は、輸送されたモノを必要とする場所で迅速に受け取ることができるなど世界的に見ても極めて高い品質を保持しているが、生産年齢人口の減少等から担い手不足が深刻となっており、物流の品質維持や多様化するニーズへの対応が困難となりつつある。

 一方、AI(Artificial Intelligence (人工知能))やIoT(Internet of Things(モノのインターネット))の進化により、新たな情報が得られるようになることで物流に関するあらゆる機能が広く繋がる効果をもたらすことが期待されている。調達・生産から小売・消費者までのサプライチェーン全体が繋がることで、どこに、どれくらいのモノがあるのかをリアルタイムで把握できるようになる。企業や業界間で物流機能や情報が共有されることで、物流会社や輸送手段やルートをより柔軟に組み替えられるようになる。“モノ”以外の情報も繋がることで、最適な物流をより総合的に判断できるようになる。このような社会全体の革新が進みつつある。

 また、AI やIoT の進化は、サプライチェーンの各領域において“人の介在”を必要とする作業を大幅に減少させる。自動運転や倉庫ロボットといった新しい技術は、今まで“人”による操作や判断を必要としたプロセスを機械に置き換えるものである。その行き着く先は、完全なる自動化の実現にある。*1

 このように物流を取り巻く環境や物流に要求される機能は大きく変化してきている。今後、少子高齢化が進むなかで更なる変化に的確に対応しつつ、我が国の経済成長と国民生活を支える社会インフラとしての機能を持続的に果たしていくためには、激変するグローバルな動向を常に把握して適宜方策を考え直しながら、その大前提として安全の確保を図りつつ、更なる効率化と高付加価値化を図る必要がある。つまり、これからの物流に対する新しいニーズに応え、我が国の経済成長と国民生活を持続的に支える「強い物流」を構築していく必要がある。

 そして「成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日閣議決定)」PDFにおいても、「物流事業者の人手不足に対して、個社の垣根を超えた共同物流を推進するため 、伝票や外装、データ仕様等の標準化を図るための協議会を2019年度中に立ち上げ、アクションプランを策定するとともに、サプライチェーン全体で物流・商流データの共有を行う実証実験を2019年中に開始する」と記載されている。

 物流・商流データ基盤の構築を通じて、「Society 5.0」の概念であるサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と物流・商流の担い手不足等の社会課題の解決を両立し、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができる人間中心の社会を目指す。

*1 ロジスティクス・ビジネス 2018年3月号 小野塚征志 著より一部引用

2. 研究内容

 主な研究開発は次の二項目である。
(A)物流・商流データ基盤に関する技術 …………………研究開発項目(A)
(B)省力化・自動化に資する自動データ収集技術 ………研究開発項目(B)

 田中従雅プログラムディレクター(以下「PD」という。)は、研究開発計画の策定や推進を担う。PDを議長とし、内閣府が事務局を務め、関係府省や専門家等で構成する推進委員会が総合調整を行う。国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所(以下「海上・港湾・航空技術研究所」という。)は、研究課題を実施する研究責任者を公募により選定する。

4. 知財管理

 知財委員会を海上・港湾・航空技術研究所に設置し、知的財産について適切な管理を行う。

5. 評価

 PDが行う自己点検結果及び、海上・港湾・航空技術研究所が行うピアレビューの結果を参考に、ガバニングボードが外部の専門家等を招いて行う。

6. 出口戦略

 構築した物流・商流データ基盤については、その利用促進を図るため、関係府省の適切な関与のもと、本プロジェクトにおけるコンソーシアム等への参加企業による共同出資会社等、中立性、公平性、持続性が確保された民間事業者が提供することを目指す。また、業界横断的な議論等を通じ、新たな付加価値の創出などにより継続的な利用ができるインセンティブを導入するとともに、本物流・商流データ基盤を活用したビジネスモデルの構築の促進を行う。

 構築したデータ基盤内のデータのうち公開可能なものを広くオープン化し、大学等のアカデミア、ベンチャー企業等を含めた主体に対して他の様々なデータとも組み合わせた活用を促し、物流・商流データを活用した若手研究者の育成、新産業の創出、災害時物流確保等につなげていく。さらには、ベンチャー企業だけでなくベンチャーキャピタル、インキュベータ等にも積極的に参加を呼びかけ、SIP 終了後も継続して事業化に結びつくよう工夫する。その他、本研究課題で開発された技術に関する特許等を戦略的に活用することで研究開発成果の提供及び社会実装の促進を行うことを想定している。

 また、物流・商流データ基盤及び様々な活用方策は、アジア諸国等に対して普及させることを検討する。




【内閣府公表資料】(内閣府Webへのリンク)
 内閣府「スマート物流サービス」の研究開発計画PDF
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