一般に普及しているインターネットでは、いくつかのサーバーと呼ばれるコンピュータを繋ぐ電線や光ファイバーの中をデジタル情報が通過して行く。そのサーバーの持ち主が誰であるか、どの企業であるかは関係が無く、コンピュータ・ネットワークに接続することで利便性を享受しようとしているサーバーを順次リレーしてデジタル情報が送られる。
フィジカルインターネット(Physicallnternet :PI : π)は、デジタル情報の代わりに「もの」をトラック、貨物列車、船、航空機などの輸送手段によって各地の物流センターを順次リレーして送るビジネスモデルのことを言う。物流センターやその中に設置されたコンベアや仕分け機、収納棚、自動倉庫、無人搬送車、フォークリフトなどの物流システム機器、さらに、ドライバーやピッキング作業や梱包作業、検品作業などを行う人々などを複数の企業が活用することで生産性向上やコストダウン、物流品質向上、顧客満足獲得、地球環境貢献などに資する活動のことをいう。それは、車や農機具、住居、別荘、マンション、会議室、さらには介護や育児、家事代行などさまざまな分野で拡大しているシェアリングエコノミーの考え方である。
フィジカルインターネットは、送りたい荷物を、運ぶ仕事を待っている企業や人に預けて、設備に余裕のある物流センターなどのアセットを介して、トラックなどの輸送手段を活用して目的地まで運ぶことから、筆者はフィジカルインターネットのことを「究極のオープンな共同輸送・配送」と言っている。同業他社などの数社であらかじめルールを決めて共同配送する従来のビジネスモデルとは大きく違い、同業他社はもちろんのこと、異業種他社や個人レベルの荷物であっても、運ぶ必要があれば、飛び込みさえも受け入れる余地のある共同物流のシステムを指すため「究極」であり「オープンな」という言葉を使っている。
長距離輸送のドライバーは、基本として到着地で宿泊するなどして自宅には帰れないことが多く、体力的にも厳しいため、若い人々には人気が無く、トラックドライバーの有効求人倍率が極端に高くなっている。我が国の求人統計では、コロナ前の2018年では一般の業種の有効求人倍率が「1.5」であるとき、ドライバーは「2.8」と2倍近い数字となっていた。ウィズコロナではそれぞれの数字は低下しているが、2倍であることには変わりがなく、ドライバー不足が続いている。物流分野での働き方改革の社会問題化の影響もその一因となっている。
フィジカルインターネットを構築して各地の物流センターを介して、預かった荷物をリレーして配送するようにすれば、トラックドライバーも日帰りできるようになる。カナダからカリフォルニアまでの5000kmを、これまで長距離ドライバーひとりが運んでいたものを17人のドライバーがリレーして運んだ場合、走行時間は48時間が51時間に6%程度増加するが、ケベックからロサンゼルスまでの所要時間は120時間から60時間に半減した。ドライバーは規定の距離を走行すると必ず休憩を取らなければならず、何よりも睡眠時間が必要である。17人のドライバーがリレーするときは、交代のために高速道路から一般道路に迂回することとなり走行距離は伸びるが、ドライバーは6~7時間で約300Kmの運転の後で他のドライバーと交代して帰宅することになる。トラックの稼働率が倍増し、スピードアップが図られ、サービス向上・顧客満足度向上につながる研究結果である。
大手流通業のカルフールとカジノがそれぞれ独自の配送網を稼働させていたが、倉庫の数を2社合計58カ所から37カ所に集約して共同配送を実施することにより在庫量が60%以上も削減され、トラックの走行距離が15%減少し、結果としてCO2は60%削減されることがわかった。
現状(共同物流拠点厳し)
共同物流拠点を使用
図2. フランス流通2社が独自の配送網から共同配送に変換
出展:荒木勉編「フィジカルインターネットの実現に向けて」日経BP、2022